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横浜市立子安小学校
「市立K小学校」は生徒数1,300人という巨大な小学校である。
日本の多くの小学校は多くてもこの半分の生徒数なのである。
なぜこのようなことになったかというと、周辺に高層マンションができるからである。

この巨大小学校の子どもたちのひとりひとりに対してどのように目配りすることができるのか。
この小学校区の住人総数は22,000人である。このあまりにも多くの“近隣住人”の人たちとどのような関係を築けばいいのか。
先生たちにとってはとてつもない難題である。

小学校は地域コミュニティの中心である。
クラレンス・ペリーの「近隣住区」理論では、800~1km四方に5,000人から6,000~7,000人が住むという想定だから、小学生の人数はせいぜい300人ほどである。その小学校区が近隣住区というコミュニ ティー単位の適正だという。今の日本の平均でも 317人/ 1小学校である。都道府県の中でも飛び抜けて一小学校あたりの子どもの数が多い神奈川県だが、それでも平均545人/ 1小学校である。1,300人という小学生の数がどれほど異常な数字 か分かるというものである。それは近隣住区というコミュニティ理論がもはや成り立たないことを示しているようにも思う。先生たちの心配の中心はそこにあった。

教室をできるだけ密室化しない、それでも時にはその静寂性を保つにはどうしたらいいのか。
それは先生たちとも長い時間をかけて話し合ったことだった。
私たちは廊下との間に透明なガラスの建具を提案した。6枚引きの建具なので、廊下に対して大きく開くことができる。教室を通じて外から十分な光を廊下側に導くことができると同時に、廊下側と教室とを一体的に使うことを考えたからである。そして、ガラスの建具の外側にもうひとつ木パネル の建具を提案した。目隠しのためだけではなく、生徒たちの作品を展示するパネルである。幅4mの廊下が展示ギャラリーのようになるだろうと考えた。
教室の外側には広いテラスをつくった。今までの子安小学校でもテラスで朝顔や草花を育てるような活動をしていたけれども、あまりにも狭い。4m の奥行きを持ったテラスを提案したのはそのためだけではなく、夏の強い日射しを避けるためでもあった。教室の面するグランド側は南西方向、道路側は東南方向を向いていた。そのままでは斜めの日が教室の中にまで差し込んでしまう。この奥行き4mのテラスが日陰をつくるためにはきわめて有効だったのである。私たちはこのテラスを「環境テラス」と呼ぶことにした。

構造をプレキャスト・コンクリート(PCaPC)にして、できるだけ細い柱梁にしたいと思った。テラス部分には地震力を一切負担させない構造にすることによって最終的に30×300mmの柱、40×300mmの梁というきわめて細い構造が実現した。テラスの奥行きが4mもあるために、この細い柱梁がそのまま自立しているように見える。このテラスでの子供たちの活動がそのままこの建築のファサードになることを期待した。

構造システムとその生産のシステム、そしてそこでの活動と建築の表現とが一致したように思った。
テラスが丘のように広がるプロポーザル時の提案よりもはるかに整合性の高い建築になった実感がある。
長い時間先生たちと話し合った結果である。

2,000人の父兄と1,000人の子どもたちによる運動会の時はこの環境テラスがスタンドになって、
グランドを含めた校舎全体が大きな野外劇場のようになった。
先生たちが嬉しそうだった。
用途
小学校
設計
山本理顕設計工場
構造
構造計画プラス・ワン
設備
総合設備計画
施工
松尾・大洋・石井建設共同企業体(校舎棟)
渡辺組(体育館棟)
敷地面積
15,090 ㎡
建築面積
6,097 ㎡
延床面積
15,562 ㎡
構造規模
地上5階 塔屋1階
竣工
2018.9
備考
サイン:廣村デザイン事務所
カーテン・Pタイル:安東陽子デザイン
植栽:GAヤマザキ
撮影:FUJITSUKA Mitsumasa (写真:中,下)
   山本理顕設計工場(写真:上)